執刀医立ち会いで妻と2度目の面会。
「今日はいい知らせではありません」と切り出されて言われたことは最悪だった。
血圧も血中酸素も心拍も正常、おしっこもちゃんと出ている。しかし脳のダメージが相当ひどく、ここからの意識回復はほぼ絶望とのこと。
体の芯に硬いものが落ちて来たようになった。握りしめていた手から急に力が抜けたのを感じた。震える手でベッドの上の彼女の顔に触れた。柔らかいし暖かい。直前まで一緒だった時とほとんど何も変わらない。ただ眠っているだけのように見えた。
声をかけたり肩を抱いたりした。反応がない。
医師がボクに座るようにと言い、暫くここにいるように、すぐ帰らなくていいからと言われた。ナースがベッド周りの仕切りのカーテンをしてくれる。ベッドの傍に座って二人っきりになった。
立ち上がってベッドの周りをウロウロ歩き回り計器類を見たり、角度を変えて寝姿を見る。いきなり彼女の上にかがみこんで顔を撫でたり脚に触ったりしながら「恭子」「キョウコ」「キョウコちゃん」と何度も呼ぶ。「俺を置いていくつもりか?そんなことはないよな返事してくれ」
反応はない。
いやこの人はまだ死んだ訳じゃないんだと思い直し、髪の毛を整えてやりながら「いや君はまだ生きてるんだよな、ごめん、ごめん」と頭を触っていたら彼女の目元から涙がうっすらと滲み出て来た。意識はないはずなのに。思わずナースを呼んでそのことを告げたら、患者さんにはそういう方もおられます、と。
次の面談の予定を立て病室を出た。
ラウンジで友人に電話をかけた。それからゆっくり車に乗った。夢の中のようなふわふわした気持ちで運転して帰った。
近所のパトロンから夕食の差し入れが届いていた。「しっかり食べないとだめです、とにかく食べてください」
家の中はやっぱりガランドウだった。水槽の金魚がお迎え。
別の友人に電話をかけずいぶん長電話をしてしまった。「今夜は眠れるかな」と言ったら無理に眠らなくてもいいんじゃないですかと。
別の友にも電話をかけた。「大丈夫です祈っていますから」と元気づけられた。そうだ祈ってくれ俺も祈る。まだ彼女は死んだ訳じゃない。
(ガハク)