白い人の谷に水音が響いている。この時期にしては珍しい。魚が住みそうなくらいだ。大雨で削られた川底を覗き込むと、ちょっとした渓流の様相を呈している。
谷の入り口には小さな橋があったんだ。満月の冬の夜に白い人が立っていた場所だ。
その美しい橋を撤去して埋め立て始めた時は何事かと焦った。不法な埋め立ては通報しろとの看板もあちこちで見かけてもいたので、すぐに市役所に電話をしたのは20年前。しばらくしたら県の土木事務所がやって来て、あちこち測量が始まった。河川というのは、県の管轄になってやっと地図に載せられるのだそうだ。それから川や道に名が付くらしい。
「Kちゃんが電話したから県が動いたんだとよ。それであの川は県の川になっただよ」と近所の情報通の爺さんに聞かされた。谷の入り口に『林道:アズザス線』という鉄の標識が立てられたのもその頃。今はもうだいぶ汚れて、遠い昔の出来事のようになってしまった。
絵の中のトワンが変わった。森の匂いの染み付いた不思議な色をしている。この集団だけがぐっと強く浮き上がって来た。(K)
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