今日こそはたまっている汲み取り代を払わねばと、早く出かけて待ち構えていたら、3時頃にバキュームカーがやって来た。バケツの水を二杯流してすっかり綺麗にしてもらった。「支払い溜め込んじゃってすいませんでした」とお金を渡したら、笑顔が戻って来た。さっぱりとした何もない笑顔だった。詮索も疑いも思惑も無い笑みは本当に気持ちがいいものだ。
まだ明るいのに雨戸が閉まってしまう家がある。こんな気持ちのいい夕暮れなのに。人が通らなくなった田舎道をときどきぶーっと車が行き来する。中学生の学校帰りの子が通る。電車が山の斜面を過ぎていくのは面白いけれど、西武線もこの頃の新車両はエゲツない。赤っぽい室内灯に煌々と照らし出されて乗客の膝まで見える大きな窓ガラスから溢れる光は、まるでホテルだ。
夕暮れ時になると漂っていた夕餉の支度の匂いもしなくなった。自転車で走っていると、カレーやサンマを焼く匂いや玉ねぎを炒める匂いなんかがしたもんだったけど、たまにしかそんな匂いに出会わない。うどんを茹でても、出汁まで作る人はいないらしい。昆布や鰹節の匂いがなくなった山里である。
夕方になってザーッと降り出した雨が鬼の足跡をすっかり消してくれた。美は力だ。天はそうやっていつも励ましてくれる。(K)
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