3時のおやつにしようと二階に声をかけたが、すぐには降りて来なかった。
家で石を彫るようになって半年経った。なにをするのも一緒だ。学生の時以来で、このペースは本当に楽しい。もっと互いの存在が鬱陶しいものかと思っていたけれど、そうじゃなかった。外に心が向いていないせいだろう。展覧会をしなくちゃとか、売らなくちゃとか、他人と繋がっていなくちゃとか、なくちゃならないものが消えて行くとやっと現れたのが目の前の人、目の前の風景だった。話したいことを思いついたらすぐに口に出すと、聞いてもらえる。
やっと降りて来たガハクの顔に、バーミリオンの絵の具がくっ付いていた。どこを塗っていたのか分からないけど、派手な色の頬紅だ。ティッシュで拭ってあげたけど、油絵具だからなかなか取れない。ほっぺの中に煎餅をくわえたままの舌でぐっと内側から押して協力してくれたので、やっときれいに拭い取れた。
白い花の真ん中にバーミリオンが塗ってあるこの木、命が与えられたようじゃないか!この世に芸術がなくなってしまったら、ただの生殖と生存だけが続く。そんな独裁者のいる家も国も組織も死んだような場所だ。だから遠ざかることこそが本当の闘いなんだ。(K)