2021年1月25日月曜日

黒は光

いつも トントンと声でノックする。画室に入ったらすぐに、「マーエダさん 負けちゃたのかなあ」と言うので、何に?と聞き返したら、「悪にだよ」とガハクはそれまで考えていたことを一言で示してくれた。誰かに助けを求めることもせず、独りで死に向かうことが出来るものだろうか?昨日亡くなったという。

ガハクはずっと前田ただし氏のことを天才の特質を全てそなえた純粋な人だと言って来た。私はと言うと、彼の訳のわからない発言に触れる度に 疑ったり嫌いになったりしたが、その度にガハクは「複雑なのが天才の特徴なんだよ」と弁護していた。それは彼が亡くなった今も 変わらない。

今夜は久しぶりに『白い旗』に加筆していた。しかも黒ばかりをあちこちに塗っている。「もっと強い黒が欲しい。黒は光なんだよ。光になるくらい強い黒が欲しいんだ。白は闇にもなるからね」と透徹したことを言う。よほど戦友の死が辛いのだ。

石の上にトカゲがいて、ガハクの筆を狙っている。捉えようもないものを食べたがるメフィストのように。ダメだよ!(K)



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