2020年8月11日火曜日

ルーペいろいろ

30年前にガハクが銅版画を始めた頃に買ったのは、据え置き型の大きな虫眼鏡だった。8年前に岡山で展覧会をした時に観に来てくれた版画家の人に教えてもらったのが、このメガネに取り付けるタイプの拡大鏡だ。ときどきによって、便利な方を使っている。

オイルストーンに油を垂らしてビュランを研いでいる。彫り易い道具とはただ鋭利なだけじゃダメなんだ。研ぎ切った後にわずかに先端を潰すと喰い込みがいい。ガハクはYouTubeで見つけたある包丁の研師から学んだ。どこに先達が潜んでいるか分からない。「求めよさらば与えられん」だ。必要になった時に、大事な情報は、目の前に現れる。

今日はこの夏いちばんの暑い日だったけれど、夜になって窓から入って来る沢風で、エアコンを付けなくても涼しい。(K)


2020年8月10日月曜日

夏水仙

山道に夏水仙が咲いている。ガハクがこの画角で毎日写真を撮って来るのだけれど、エデンの門の佇まいに何かを感じているのだろうと思って眺めていた。でも、今やっとその意味が分かった。毎日蕾が一つずつ開いて、今日は5つの花すべてが咲いているのに気が付いた。

この辺りの山のことを「何にもありませんね」と言う人と、「放っておかれていていいなあ」という人がいる。手入れがされていない山、ボサボサの草原、凸凹の山道、鉱山跡の石ゴロゴロの山道が、ふわふわの腐葉土に覆われるには一体何年かかるのだろう?人が荒らした山の修復をするのは森だ。

エデンで人に会うのは珍しい。先日遭った青年は以前にもここでガハクを見かけていたらしい。「犬を連れて、木を片付けてましたよね」と話しかけて来た。トワンが死んでからもう一年半経つのだから、彼は何度もここに来ているということになる。アウトドアの写真を撮っているのだと言うから、プロメテウスの石の傍に細工した木切れが落ちていたのは、どうもこの青年のやったことのようだと合点が行った。

自然の中に自分を重ねて写す人は痕跡を残す。透明な目を持つ人は何も残さないで、ただ認識を持ち帰る。(K)


2020年8月9日日曜日

耳を彫る

同じ耳は二つとない。誰もがそれぞれの形の耳を持っている。どれを見ても耳だと分かる人間の耳。この彫刻にぴったりの耳があるはずだ。

平ノミで耳の穴を少しずつ慎重に深く削って行った。

よく聞こえる耳にしよう。彫りながら、耳が一番脳に近いところにあることに気が付いた。スエデンボルグの霊視によれば、耳は従順、目は認識だそうだ。神の声を聞き、真実を見つめる人を彫っている。(K)


2020年8月8日土曜日

蝉が腕にとまった

今日の山はどうだった?と聞いたら、「蝉がとまったりして面白かったよ」と言うから、肩とか帽子にだろうと思っていたら、剥き出しの腕にしっかり掴まっているじゃないの!じっとガハクの顔を見ている。すぐに飛び去ったのかと思ったら、次の写真が山のてっぺん。ずっとそこまで付き合った蝉の気持ちを想像すると、何とも愉快だ。

「蝉にピントを合わせようと思うからいけないんだな。後ピンになっちゃった。腕に合わせりゃよかったんだ」と今頃言っている。それに「最初は真ん中にいたのに、カメラを向けたらだんだん後退りするもんだから、腕を回して撮ったんだよ。写すのが難しかった」などと、蝉との散歩はずいぶん楽しそうだ。

「今日は足の裏が痛くならなかった。山を降りる頃になると、いつも痛くなっていたんだよ」やっと浮腫みの影響が消えて来た。親指の付け根辺りに小石を踏ん付けているような違和感と痛みがずっとあったらしい。足を内側荷重にして工夫して歩いていたそうだ。歩き方の癖も直って来た。

自由っていいもんだ。ガハクの体から木のような生気が発散している。(K)


2020年8月7日金曜日

終診

今日はガハクの最後の診察になるかもしれないというのに、うっかりして歯医者さんの予約を入れてしまっていたものだから、ガハクと別行動になった。でもそのおかげで、ガハクと医師の二人だけで交わされた会話と決定が面白かった。

血液検査の結果は、腎臓も肝臓も血栓も異常なし。先生は「これで『シュウシン』ということになりますかね」と仰ったのが、ガハクにはピンと来ない。初めて聞く言葉だったからだ。「診察終了ということです」と説明されて、やっと病気から解放されたことを知る。「これからどうしましょうか?ひと月ごとにレントゲンを撮るというのもあるし、3ヶ月後にCTを採って様子見ますか?」と言われた。

ガハク答えて曰く、「こんなに酷い目にあったので、もう二度とこういうことにならないように健康管理に気を付けるようになりました。ちょっとした体の異変にも敏感になったと思います。またおかしなことが起きたら診てもらうということでいいんじゃないでしょうか」
すると先生、「そうですよね。もういいですよね」とスッと意気投合して結論が出た。

私が呼吸器科の外来診察フロアーに着いたときは、すでにガハクは7番扉の向こうで話をしていたのだ。出て来たガハクに手を振って合流。後で聞けば、「今日は夫婦で来ている人が多くて、皆仲がいいんだよ」と言う。それで思い出したことがある。

以前、ぞうけいに入ったばかりの生徒さんにガハクが、「夫婦仲はいい方ですか?仲が良い夫婦でないとうちはうまく行かないんです」と伝えていた。仲が良い人は少ないと思っていたが、そうでもないようだ。今日の病院には仲が良い人しか来れなかったようだ。霊的スフィアが透き通っていたんだな。

今夜は生きて帰れた喜びに浸って集中している。(K)



2020年8月6日木曜日

瞳の位置

頭がだいぶ小さくなって顔が引き締まって来たので、瞳の位置を変えざる得なくなった。そう確信しれば、あとは実行あるのみ。一旦やり始めたら、途中でやめる訳にはいかない大事な場所が目だ。瞳の縁が吹っ飛んだら、元も子もない。左目はいい位置に収まっているからそのままで、この右目だけを中央に向かってじりじりと動かした。2時間ほどかかってやっと目的地にたどり着いた。ほんの1ミリ弱の大移動であった。

明日はガハクの通院日だ。ステロイドを飲まずに過ごした1ヶ月、少しずつ無くなっていく浮腫みは、まるで脱皮のようだった。(K)


2020年8月5日水曜日

独り立ち

夏の始まりの日に ガハクは山で、枝に留まったままじっとしている小鳥を見つけた。ケガでもしているのかと心配になって、かなり接近してみた。頭に白いぽしゃぽしゃの綿毛のような羽が生えている。まだ子供だ。

君は誰の子?ガビチョウにしては色が黒いね。尾羽が無いのもおかしいなあ。これから生えてくるのかい?コジュケイとかヤマドリだったら、もっと大きいはずだし。でも、カルガモだって子供の頃は小さいか、、、

もっとよく見ようと後ろに回ったら、突然パッと飛び去った。
なんだ、飛べるんじゃないか!

巣立ったばかりだったのだろう。森の梢でじっと周りを見渡して、その瞬間を狙っている。いや、狙ってなんかいなくて、じわっと湧いて来るエネルギーが身のうちに充満するのを待っていたに違いない。蝉だってそうだもの。柔らかな薄緑の透明な羽がどんどん色が変わっていく。そして、いよいよ飛ぶ瞬間が近づくとコチッとした金属質の羽になる。そういうことが人間にだって起こるはずだ。(K)


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