2019年4月27日土曜日

乗っ越し

今日も目を彫った。昨日はいいと思った顔が、今日になるとまた不満が出て来る。空を見上げているから光を正面から受けることになるこの人の瞳、どんなに深く彫っても光の角度によってぼんやりして見える。光が多過ぎて影が足りない、彫り足りない。

瞼の裏側まで彫らないと影ができない。唇の奥まで刻んでおかないと線ができない。それでも前よりは形が強くなった。意識が変われば求めるものも変わって来る。それまで欲しかったものは消えて、これからは新しい発見さえあれば何とかなると思えて来る。

眉と瞼と鼻梁の間の複雑な凹面。口元にもまだ隠されている形がある。まだまだやることがいっぱいある。峠の向こうにも道は続いていた。(K)


2019年4月26日金曜日

植物と啓示

冬の間部屋の中に置いていた観葉植物。毎日眺めていたからそれを絵の中に描き入れるのは容易に思える。よく知っているものは描き方さえも自然に浮かんで来る。反対に知らないものは実際にそれを目の前に置いていたとしても上手く描けない。描き方も浮かばない。だから表現において体験は何にも増して大事なのだ。
しかし本当に面白いのは知らないものをまるでよく知っているかのように描けた時なのだ。なぜなら予め画家の脳裏に浮かんでいるイメージ以上のものが思いがけず画面に現れるという突然の出会いがなければ、予定調和だけしかなければ絵の本当の魅力は出て来るはずがないからだ。
たぶんその時画家の心は知識にも既存の描き方にも囚われず、ただ受容という啓示のなかにあるからだと思う。 (画)


2019年4月25日木曜日

香る人たち

目が彫れる日はいい日だ。昨日と今日は目にかかりっきりだった。意識を強く心は柔らかくしていれば、あとは自然に手とノミ先が動いてくれる。そういう風に彫れるようになった。

途中で疲れて眠くなったので道具を置いて外に出た。畑のネットに潜ってレタスを一つ収穫。

再びアトリエに戻って、男の子の額をキュッと引き締める作業に取り掛かった。壁に食い込んだ顔の輪郭を彫るのが難しくて、ヤスリで削ってはノミを当て、またヤスリを当て直してやっとスッキリまとまった形になった。女の子の顔も一回り小さくした。二人はどんどん成長している。幼い感じだったのが、今はすっかり大人びて目覚めた意識を持つ顔になった。(K)


2019年4月24日水曜日

時間

山道をゆっくり登って行く。トワンが元気な頃よく一緒に登った道だ。彼のペースに付いて行こうとすると息が切れたり脚が重かったりしたものだが、今は一人だから何の苦労もない。それに今は時間がたっぷりある。
山を下りながら気づいた、時間が増えたというこの感覚はトワンが死んでから生まれた、そうだ、彼は死んだ代わりに時間を生み出したのだ、まるで一緒に暮らした14年という時間をトワンは今僕らに戻してくれたみたいだなと。
画面を眺めるとそこにトワンがいる。彼を描く時間もたっぷり残されているのだ。(画)


2019年4月22日月曜日

耳の従順

小さな子たちに絵を教えているとき、彼らの柔らかな心に吸い込まれていく水音が聞こえるようなんだ。こっちがドキドキするくらい美しい情景が皆の間に浮かび上がることもある。描き終わったばかりの絵を眺めている時もまだ意識が作る空間は崩れずに持続している。

これは本当に存在するものなのか、あれは妄想に過ぎなかったのか、捏造されたものと真理を識別する力を持っているのが芸術だ。描いたもの作ったものを売り買いすることや自分の名が知れ渡るようにすることが耳から入って来る誘惑によるものだとしたら、耳を塞ごう。でも優しく甘い音、爽やかにしてくれる風の音なら聞きたい。

「トシが死ななかったらあのまま東京にいただろうし成功したかもしれない。天才も野心に晒される。それが達成できなかったから賢治なんじゃないの」と慰め励まされた。(K)


黄土

極細の筆一本で広い面をイエローオーカーで塗り続けた。
イエローオーカーという色は初めて油絵を描いた時に便利な色として覚えた最初の思い出の色だ。微妙な色ともいえる中間色で製造者により少しずつ色味が違う。以前オランダ製の大安売りの絵具にとても綺麗なのがあった。あんないいイエローオーカーにその後出会っていない。イタリアだったかの黄土が最高とか?でも人の好みに絶対値をつけるという発想がおかしくないか?
黄土色、アースカラーなどと言えば聞こえはいいが、子供達にとってはパッとしない色汚い色あまり興味のわかない色、彼らに言わせればウンコ色だ。昔トヨタの車でそんな色のがあったっけ。
実は僕も今手元にある顔料の色味が気に入らないので、他のいくつかの色を混ぜて好みの色にしている。

大きな刷毛を使えばもっと短時間で仕事が終わるし、その方が切れ味のいい面になるだろう。もたもたしたタッチは画家の気弱さを表すだけかもしれない。でも今はこの方がいいのだ。単調で退屈な作業のようでいて瞬間的にできてしまう時には出会わない何かに偶然突き当たることもあり得るから。(画)


2019年4月21日日曜日

花の成長

今年最初に咲いたリンゴの花の大きさに驚いた。花の大きさは、これから実る果実の大きさを示している。毎朝眺めていると、花びらも日毎に大きくなっているのが分かる。折り畳んだ薄い紙を広げたような造花じゃなく、葉と同じように花も成長しているのだ。虫が飛び始める頃に咲くリンゴ。スモモはとうに散ってしまったから、あれは風媒花なのかな?

花のエロスをまっすぐに捉えることが出来そうだ。香り立つようにゆっくり研ぎ出している。(K)


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