2020年9月4日金曜日

いつだって最高

彫り直したら、すぐに試し刷りして、それを見ながらまた彫り直すをいう作業を今夜も続けているガハクだ。暑さが和らいで来たから、プレス機のある部屋での刷りの作業もだいぶ楽になっただろう。

前の銅版画と並べて見せてくれた。色がさしてあるバージョンのもある。キリッとした明暗、誠実な美しさがあった。そのときどきの良いものが出ていれば、後で見ても気持ちがいいと言う。

この王子、以前は宗教的なイメージがあったのだけど、今は剥き出しのギラギラした目をしている。真一文字につぐんでいた口は、大きく開いて叫んでいる。彫りも刷りもうんと繊細になったのに、情感の厚みが増した。
「どんどん先に進めなきゃ」とガハク尚彫り続けるつもりだ。(K)


2020年9月3日木曜日

蜘蛛の仕事

歩いていると、よく蜘蛛の巣が顔に引っかかる。「ここにはきっと蜘蛛の糸があるぞと思って近づくと、無かったりもする。蜘蛛はどうやって場所を決めてるのだろうね」と、ガハクが山散歩から帰って来て汗を拭き拭き話し始めたのは、蜘蛛の仕事についてだった。

罠にかける虫を食べて暮らしている蜘蛛が、虫が通りそうな場所を的確に探しているとは思えない。隅っこの何でもない所に無造作に張られている巣もあるし。偶然にそこに作ることにしたというだけの良い加減で適当なことが、そんなに大きな悪さをしないで済んでいるという、そんなことに話は進んだ。

もし美味しそうな虫を狙って、そいつが通りそうな場所に罠を仕掛け、時間もぴったり合わせて待ち受けていたら、蜘蛛はかなり悪い奴だということになるが、そんな蜘蛛はここにはいない。ただ毎日せっせと壊された糸を張り直して、お腹が減ったり、食べきれなくて放っておいたりして暮らしている呑気な奴ばかりだ。(K)


2020年9月2日水曜日

足の発掘

怖がって彫っていると形が固くなり、空間が窮屈になる。この足を何とかしたいと考えながら眺めていたら、地面を2センチほど掘り下げれば、新しい足が彫り出せることに気が付いた。地面の中央が膨らみ過ぎているからちょうど良い。

2匹の犬が共有している内側の足を分離する作業に取り掛かった。すると、突然大きな雷鳴が轟いて辺りが光った。すぐに土砂降りになって、トタン屋根を激しく叩く音。煩いので耳栓をした。顎からポタポタ汗が落ちる。久しぶりに激しいペースでハンマーを振るっていたからだろう。

雨トイからはみ出すほどの降りに 畑の作物は喜んでいる。雨の後は金色の夕焼けが広がった。(K)


2020年9月1日火曜日

真理の馬

ガハクの銅版画が次々と彫り直されて行く。この川を遡上する馬もその一つだ。赤ん坊を見遣る馬の表情を見ていると胸が熱くなる。意識の度合いがそのまま刻印されて行く。芸術とは誤魔化しようもない内なる理解そのものだ。よくここまでとらえたなあ。足を洗う水の圧力まで感じる。美は外にあるのではなく、内に住むものだということだ。(K)


2020年8月31日月曜日

沢から引いている水

朝一に街に出て、エア抜き用のジョイントを買って来た。そして午後、山に入って水を引いているパイプの途中を切断。鞍部の少し手前辺りが良いだろうという判断だ。ジョイントは簡単に取り付けることができた。最近のはバーナーで炙って伸ばしたり広げたりする必要はなく、構造がシンプルで良く出来ている。

さていよいよエア抜きだ。コックを倒したら、まず空気がシュッシュッと音を立てた。で、次には泥水が噴出!しばらくしたら透明で冷たい水が勢いよく流れ出た。全てうまく行った。アトリエへ戻って蛇口を捻ったら、すぐに水が出た。2ヶ月ぶりだ。

山の中の小さな沢から引いている水を こんなに有り難く感じたことはない。地主さんや山主さんの土地を横切り、家々の裏庭を通って来るパイプは、36年間ずっと黙認されて来た。途中の野原がブルーベリーの果樹園になった時も、パイプを踏まないように丸太を当てがって工夫をしながらフルドーザーで耕作してくれていた。たった一人の彫刻家の勝手な仕事のために。

やればすぐに出来る簡単でなんでもない作業を何故ずっとやろうとはしなかったのか?何に気を遣っていたのか?作業しながら、ずっと怯えていたものが消えて行くのが分かった。

帰りに自転車で走り出したら、さーっと霧雨が流れて来て顔に当たった。気持ちがいい雨だ。やっと夏が終わった。(K)


2020年8月30日日曜日

リンゴの木の再生

連日の猛暑にもかかわらず、リンゴの木に花が咲いている。若葉が次々と出て来る。実が終わった後に、こんなに鮮やかな緑を付けるなんて、初めてのことだ。地面のあちこちにあった蟻の穴も消えている。ついに蟻との戦いに勝ったようだ。

地中の巣を放棄させる為に、市販の毒入り置き餌を使った。(もう無農薬でとか言ってられない)カナブンの幼虫の駆除剤も買って来た。一番効果的だったのは、幹の空洞を紙粘土で塞いだことだろう。今年の長雨に作られた蟻の大邸宅を解体し、表玄関を塞いだ。

夏の虫たちの餌食になって死にそうになったけれど、また生き返った。(K)


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