2019年1月5日土曜日

激しい雨と優しい雨

激しい雨と優しい雨、二つの雨の違いを何とか出せないかと思いながら彫っていた。ノミ痕の荒々しさで出すよりも、線で区切られた面の奥行きと明暗で 表現出来ないか?

そこに光がどのくらい溜まるか、その量で決まるようだ。抉った面は冷たく、膨らんだ面は優しい。幅が狭くなると厳しさや激しさが増す。

彫っているうちにだんだんやり方が分かって来て、彫ってみると実際にそう見えて来るから面白い。(K)


2019年1月4日金曜日

「ゾーン」

いつものトワン道を行くと途中に道幅いっぱいの鉄の門がある。以前操業していた鉱山跡で、採掘したマンガンの運び出しに使われていた。この門が閉まりきりになって久しい。関係者以外立ち入り禁止の札も今では腐って崩れ落ちている。門の脇をすり抜けて入り雑木の中の踏み跡を行く。しかしここからは「立ち入り禁止」なのだ。
タルコフキーの映画『ストーカー』に「ゾーン」という場所が出てくる。超ミステリアスな空間だ。人を寄せ付けない為調査団が入れず政府にもその実態が分からない。軍隊さえ跳ね返された。そして厳重に「立ち入り禁止」警察が見張りを立て、不審者は銃撃さえされる。
トワンの「ゾーン」は誰でも受け容れる。しかし何があるのかはやはり分からない。分かる人にしか分からない。これもひとつの「ゾーン」じゃないか。(画)


2019年1月3日木曜日

澄んだ意識

レリーフの中の空気が澄んで来た。雲を貫いて水の中にまで入っていく光。これが今の状態だとすれば、ずいぶん透き通った意識の中に住んでいることになる。

トワンが死ぬと空虚になるのかと思っていた。淋しく孤独で哀れな取り残された暗い感情に沈むのかと思っていた。死の効用とは、生きているうちに交わされた愛の姿を風景に重ねることが出来るようになることだ。

縦横無尽に動く風と光を秩序立てて彫ってみたい。遠くまで見渡せるように、少しずつ。(K)


2019年1月2日水曜日

精霊の存在

暮れの1日、若い友人達と裏山を散策した。トワンといつも散歩していた山道を行く。とりたてて何か見るべき面白いものがある訳ではない。針葉樹と冬枯れした低い雑木の混じるただの樹林帯だ。そんな中を登る。こんな所に面白みを感じるらしい彼らも変わっている。
以前から好んでやって来た場所ではあったが、トワンが死んでからその訳が理解できた。天使は精霊の存在を指し示す為に僕らの元に来て、それが確信となる為に去って行かねばならなかったのだ。(画)

2019年1月1日火曜日

波の裏側

海底に反射した光が海面を裏から照らす。船の底にゆらゆら揺れる光。波が裏側から照らされてキラキラ光って輝いている。水が透明でそこには何もないように見える。

今夜は彫り難い波の裏側に平ノミを当てて丁寧にさらっていたら、卵にかかる波を斜めにすることを思いついた。シューッと動いて行く船のようになってスピード感も出た。どうもトワンが見つめている方向へ動いているようだ。

二つの渦が回る方向をきっちりさせたら、互いに繋がって噛み合って来た。とおめいな丸い球の中で活動する者達の呼吸が一つの音になって聞こえる。(K)


2018年12月31日月曜日

絵のルール

使っている緑色を少し変化させた。さらに赤みがかった青の領域をわずかに増やしている。色数はこんなもので充分だと思う。多色を自由に扱えるようになりたいという願望はあれども未だ実現できていない。
絵にはその見方に暗黙のルールがある。
例えば遠近法ーーー上に描いたものは下に描いてあるものより遠い、大きく描いてあれば小さく描かれたものより近い。
例えば明暗法ーーー明るい色は光、暗い色は陰、それでものが膨らんで見える。それはそう見えるというより見方のルールなのだ。
このルールは時代とか文化により決まっているのだ。だから時代や地域、文化により変化する。
色にもルールがあり、同じ色であれば同じもの、違う色であれば違うものとして先ずは見ようとする。いやそうでもないぞと思うのはその人の知識、経験度による。
画家はそういう認識の仕方(ルール)を利用したり対決したり妥協したり時には無視したりしながら絵を描く。(画)

2018年12月30日日曜日

永遠の入り口

そこを彫り直しても大して変わらないように思える目立たない場所、慎重にやらないと大事な形が吹っ飛んじゃうような繊細な場所がある。「神は細部に宿る」という言葉を思い出しながら今夜はずっと気にしていたところを彫った。

寒さで朝から頭の奥がしんしんと痛かったけれど、やり終わった頃にはすーっと軽くなっていた。気が付いて良かった。放っておかずに良かった。そのまま死んじゃうようなことがなくて良かった。

足の裏に天使の仕事があるそうだ。全体重を支えて地面に触れ、跳躍の瞬間地上を離れる一点。ここが彫れればこの人は本当に美しくなる。(K)


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