2020年3月11日水曜日

袴を彫る

ニュアンスで誤魔化さないで一つ一つの襞や紐の重なりを彫ることにした。布の厚みはそれほど重要じゃないが構造は大事だ。袴の仕組みがどうなっているのか分かって来ると結構自由に彫れる。ちょっと無理かなと思って避けていた結び目から垂れ下がった紐も、実際に彫ってみたら蝶の長い尾羽のようでもある。なかなか美しいじゃないか。こういうことは素直にやってみるに限る。面倒がって逃げていたのじゃいつまでも出会うことのない形だ。はっきりと刻む。今持っている技術をぜんぶ出し切ったら、次が与えられる。そこまで行こうとしない者には決して与えられないのが『美』だ。

 今夜のガハクの声は元気が良かった。先生に「数値が素晴らしい!」と言われたそうだ。もう歩行器なしで、自由に11階のフロアを歩いているという。よく動いているから体重が増えなくて、減っているそうだ。でも看護師さんたちはそんなガハクの嘆きに対して「筋力を使うと軽くなるんですよ」って笑って応えるのだそうな。もっと食事を増やしてくれと頼んだら、おかゆの量が増えて、朝食に栄養ドリンクが一本追加されたと。まあ、軽い方が動きやすいし、筋肉だけの野生の猿を思えばいいかな。

退院の日程はまだ告げられない。今か今かと待ち遠しいけれど、ガハクはまた新しい部屋へ移動して、そこが気に入っているようだ。窓際のベッドからは、筑波山や赤城山に雪が被っているのがよく見えて気持ちがいいそうだ。もう少しいてもいいなと思えるほどに。ここまで来れば、帰りのドライブのイメージが湧いて来る。あんぱんを買って行こうとか、スポーツメガネもあった方がいいなとか。

リンゴの木の芽がほころび始めた。今日の空と雲はドキドキするほど鮮やかだった。(K)


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