2020年7月9日木曜日

スクレーパー

夜の10時、画室を覗くと、まだスクレーパーで線を削っていた。机の横に貼られた試し刷りを眺めたら、空間に字の塊が浮かんでいるだけで、枠線は消えているように思えた。でもガハクの目には不完全なのだ。「まだ汚いでしょ」と言う。完全なものを求めている。

ガハクの爪には闘病の記録が残っている。爪の色と形が、病気の時と、その後の回復期では全く違うのだ。線を引いたように、くっきりと変わる。だんだん爪を切って行くと、あと3ヶ月もしたらすっかりダメージの痕跡は消えるだろう。ディフェクト部分は爪の先⅓だけになった。

爪の下の肉がなくなってふにゃふにゃだった指先に 今はしっかり肉が付いて太い血管が力の元を行き渡らせている。今朝は茹で卵、昼はビーフを入れた炒飯、夜は鶏の唐揚げにした。ガハクの体が新しく作り直されているのを実際に目の前で見せられているから、食べることを疎かにできなくなった。

毎日何を見ているか、何を食べているか、何を考えているか。そういうことが私という実態を形作ってもいるわけだ。(K)


よく見られている記事