2020年9月26日土曜日

草の露を払いながら進む

ここら辺りまで来ると、もう素振りはしない。道はないし、足元は凸凹だし、頭上は木に覆われて木刀が枝に引っかかるからだ。草の露を払い落としながら進む。そうしないと、ゴム長を履いていてもズボンの膝から腰までびっしょり濡れてしまう。ときどき蜘蛛の巣を払ったりもする。ネバついた糸が顔にべったり張り付くと、不愉快だからだ。

「ちょうどこの辺りだよね。トワンがいなくなったのは」とガハクが言う。あの時は深い雪に覆われた山の斜面を猪を追いかけて、しかもそれからミゾレが降り続いて、臭いが消えて、帰って来れなくなったのだった。必死に探した。5日目の夕刻、山向こうの村でトワンと遭遇した時の喜びは忘れない。車に乗せて二人と1匹で眺めた山の上の星々の美しさも。あれからトワンは獣と出食わしても、二度と深追いしなくなった。失敗は繰り返さない。

獣道とガハクの踏み跡が重なって、新しい道が作られて行く。(K)



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