2020年5月15日金曜日

幻の滝

夜になってもまだ興奮しているのは、ひと月ぶりに街に出たからだけじゃない。今日のCT検査でガハクの右肺の小さな突起が目で見てはっきりと分かるくらい小さくなっていたからだ。先生の言葉のままで言えば「自然治癒できている」ということだ。じわじわと来る喜びを実感している。あれはサイトカインストームではなかったか。過剰防衛による多臓器障害の傷痕がやっと治った今、また新しい命が注がれているように思える。

 遅くなってやっと画室に上がって行ったガハクは、今夜は小さな滝を描いていた。水しぶきの先にあるのは、ずっと道だと思っていた茶色の帯で、これから川になるらしい。

本人に言われて気がついた。ガハクの体のコンストラクションが変わった。立ち姿が前とはぜんぜん違う。元々あった背中の丸みが消えて、前に倒れぎみだった首の角度が立って来た。人は死にかけると、何かが離れ、新しいものが入って来るようだ。(K)


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