2020年2月14日金曜日

飛翔の角度

ガハクの病気は治って来たけれど、今度はどうやって力を出すのかが問題になって来た。すっかり痩せ細った体はちょっと動くだけで辛そうだ。飲んだり食べたり出来ればエネルギーも蓄えられるのだろうが、まだ喉に通らない。点滴の管はだんだん少なくなっている。酸素も要らないほど呼吸が楽になるには、もう少し時間がかかるようだ。昨日より元気がなくなっている気がすると、気持ちが塞いでがっかりした顔をする。今日もそうだった。肩を揉んでいるうちに目がぱっちりと開いて来る。意欲というのは内と外と同時に湧き上がるものが必要なんじゃないかなあ。「なんか喋ってよ」と自分より私に話させようとするのは、聞いている方が楽だからだろう。もっと話をしないとと思うけれど、30分の面会時間じゃ意識が奮い立つには短過ぎる。今日は帰りの山間をハンドルをきゅーっと回して、もう一度面会に行こうかと思ったくらい寂しかった。側にいればもっと明るい時間が過ごせるだろうに。でも焦らないで行こう。

公会堂のお掃除の日だったのだけど、病院に早く行きたいので 、皆が集合する前にいつも私がやっているところだけ綺麗にして、メモをドアに貼り付けておいた。「窓ガラスの掃除はやりました。用事があるのでお先に失礼しますK」と。
 もうとっくに解散しているだろうと、公会堂の横を過ぎて家に向かう坂にハンドルを切った時、声がかかった。「まあKさん!どうしたの?みんな心配しているよ。まだお茶を飲んでいるから話しに行ってあげて」ほとんどの人が私より年上の老婆だけれど、一斉に固唾を飲んで、ガハクが運び込まれた時の顛末に耳を傾けている。そして話終わると一斉に「よかったよかった」の合唱になった。話をする。正直に話す。思ったことをあったことを言葉にするってこんなに元気になるものなんだなあと、ボイスの言葉を改めて認識した。

「君の傷みをさらけ出せ。そうしたら元気になれる」ヨゼフ・ボイス (K)


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